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2.吉州窯 図柄①-擬態-玳玻天目 

2025.11.03 吉州窯

吉州窯の模様、図柄の特徴

吉州窯の陶器に見られる非常に豊富な模様や図柄は、その多くが当時、多種多様な文様で「天下に広く知られた」耀州窯の意匠を熱心に模倣したものと考えられています。 
耀州窯が確立した洗練された文様や装飾技法は、吉州窯にとって学ぶべき手本であり、意欲的にその優れた技術とデザインを取り入れました。この「勉強熱心」な姿勢が、吉州窯の陶器に多様で魅力的な文様を生み出すこととなったのです。

吉州窯 図柄① 擬態(ぎたい)玳玻天目(たいひてんもく)

動物が敵から身を守るための生存戦略の一つに擬態があります。これは、動物が体の色や模様を周囲の環境に似せることで、捕食者から身を隠す方法です。 
たとえば、潜水が苦手な小さなカメは、水面を漂う枯れ葉や木片のように見せることで、敵から身を守ります。また、多くの蛾は、羽を木の葉や木の幹に似せることで、捕食者の目をごまかします。このように、動物は自らの姿を周囲に溶け込ませることで、捕食されるリスクを減らす巧妙な生存戦略を持っています。 

吉州窯の独特な表現に擬態を用いたものが多くあります。吉州窯の陶工たちは、南宋の戦乱期に華北や他の窯場から南方に避難しています。戦乱や動乱から逃れてきた人々にとって、「隠れる」「身を潜める」といった行為は、生存のための重要な手段でした。 
擬態を用いた陶器は美しいということだけでなく、自然の保護や吉祥の象徴そして陶工の魂という「守りの力」が込められており、争いのある世を生きる人々の精神的な支えとなったことでしょう。 

《ウズラ》玳玻天目 うずら天目

ウズラは臆病な性格で、その卵には特徴があります。 ウズラの卵は、草むらで外敵から身を守るカモフラージュの役割を果たし、この模様は親から子へ遺伝します。柄の正体は血液です。 また、ウズラの卵には粘膜のダメージを回復させ、免疫力を高める効果があると言われています。これは、早く成長する必要があるウズラが、卵に多くのビタミン群を蓄えているためです。 
このウズラの生態から以下のことがうかがえます。
血は争えない:卵の模様が親から子へと遺伝するように、本質的なものは受け継がれる。 
お金は蓄えたほうがよい:卵が栄養を蓄えているように、将来に備えることが大切である。 

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玳玻天目 うずら天目    

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玳玻天目 うずら天目

《亀》玳玻天目 鼈甲(べっこう)天目 

亀は、多くの文化で特別な存在として扱われてきました。 非常に長生きなことから、長寿や不老不死の象徴とされており、中国では、五千年で「神亀」、一万年で「霊亀」と呼ばれるほど神聖な生き物です。知恵と長寿を象徴し、不老不死の仙人が住む伝説の山「蓬莱山」の使いとされているほか、神聖性を強調する五色(青・赤・黄・白・黒)が亀に含まれているとされ、五行説とも関連付けられています。 
また、紀元前7世紀頃にギリシャの都市国家で発行された人類最古の硬貨は、デザインに亀が使われていました。西洋でも古くから亀が特別な動物として認識されていたことがわかります。 

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鼈甲天目茶碗(べっこうてんもくちゃわん)      

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鼈甲天目釉水注(べっこうてんもくゆうすいちゅう) 

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鼈甲天目瓶(べっこうてんもくびん)

《ナマコ》 玳玻天目 ナマコ釉 

ナマコは、自身の体を背景に紛れ込ませて目立たなくすることで身を守る隠蔽型擬態という生存戦略をとっています。
ナマコは素手で触っても噛むことも刺すこともなく、身体の一部を失っても驚異的な再生力で元に戻り、逃げも隠れもせず環境に適応して生きています。また、海水や砂地を浄化し、生態系の保全に重要な役割を担っています。
食用としても重宝されており、老化防止の効果があると言われています。
また、陶磁器の「海鼠釉(なまこゆう)」は、ナマコにそっくりな藍紫色の釉薬です。まるでナマコのようにストレス無く生きていける願いが込められているように思われます。脳がないナマコは、悩むことなく気楽に生きているのかもしれません。

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玳玻蓮天目(たいひはすてんもく)

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玳玻鸞天目(たいひらんてんもく)

《蛾》玳玻天目

蛾(ガ)は、静止しているときは羽を木の葉に似せて身を守る擬態の能力を持ちます。一方活動しているときは多くの植物が実を結ぶために必要な花粉を運び、目立たないながらも命を繋ぐ重要な役割を担っています。 

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玳玻天目

《うさぎ》

武器を持たない動物は、優れた聴力と足の速さを活かした防御戦略で身を守ります。
敵の存在をいち早く察知し、茂みなどに隠れたり、素早い足で逃げたりして危険を回避します。これらの戦略は、戦うことを避け、生き延びるために進化した効果的な方法です。
うさぎの色調に似た釉薬が使われた器があります。うさぎがひっそりと隠れているかのように見えます。厳しい世を生き抜くために、目立たずに身を潜め、静かに安息を求める陶工たちの切実な願いが込められているように思えます。
ナマコ釉より白く出来上がったものをウサギの腹にたとえてウサギ釉ということがあります。各人によってとらえ方の相違があるようです。

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※次は、模様と図柄②植物 木の葉天目や梅瓶などの紹介をします。(近日公開)