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FEATURE
5.吉州窯 形状の特徴
2025.11.25| 吉州窯
吉州窯 形状の特徴
《茶碗》
吉州窯の器は、体が大きく、土台となる高台が小さいため、非常に不安定で倒れやすく、一度倒れると自力で起き上がることができません。この特徴は、「物事には注意深く向き合いなさい。あまりに大きくしすぎると、転んでしまい、元に戻れなくなることがある」という教えを示唆しています。
これは、人生や仕事において、自分の力を過信したり、物事を急激に拡大しすぎたりすると、思わぬ失敗を招く可能性があるという戒めと捉えることができます。常にバランスを意識し、謙虚な姿勢で物事に取り組むことの重要性を教えてくれているのかもしれません。
《天目茶碗》
天目茶碗といえば建窯(けんよう)抜きん出ています。
一方、吉州窯も建窯と並び称される非常に個性豊かで魅力的な天目茶碗を生み出しました。
「玳玻天目(たいひてんもく)」鼈甲のような斑)
「木の葉天目(このはてんもく)」本物の木の葉の模様を写し取ったもの
「鸞文(らんもん)」「梅花文(ばいかもん)」切紙文様を貼り付けて装飾を施す技法
など、非常に独創的で豊富な文様が特徴です。
吉州窯は、磁州窯、耀州窯などの優れた意匠を勉強熱心に取り入れつつ、独自の技法を確立し、建窯とは異なる系統で天目茶碗の美を追求した、非常に重要な窯なのです。

天目大鉢

天目茶碗
《水注》
吉州窯の水注は「水の入る口が小さく注ぎ口も少ししか水が出ない」つくりです。
これは、大きな財を求めず、少しずつ大事に使いなさいという教訓を表したものといえるでしょう。子孫の代まで大切にすることを教えてくれているようです。

鼈甲天目釉水注
《壺》
壷中日月長(こちゅうじつげつながし) 悟りの境地や時間を超越した安らぎの世界を意味します。
日月長(じつげつながし)は、時間の過ぎるのがゆっくりの意味で、時間的制約や束縛がないことを意味します。
壺のような小さな世界でも穏やかに過ごし、時間に追われることなくただ悠々と人生を送る。
壺に入れた酒を飲めばこの世の憂いを忘れ、ただ楽しむことができるという願望が込められています。

緑釉人物壺

黒釉三耳壺

白地刻花竜文瓶

黒釉梅瓶

白地鉄絵花鳥文四耳壺
《染付》
モンゴル民族が中国を支配した元時代になると、天目の需要は激減し、華やかな染付が主流となり、吉州窯の陶工の多くは景徳鎮窯に移住していきました。
吉州窯でも景徳鎮をまねて染付茶碗が焼かれましたが、主流となるには至らず、染付の生産は断念されました。この試行錯誤の段階で終わった染付は、焼かれた数が少ないため、現在では希少な作品です。

明碗 染付

明碗 染付

明碗 染付

明碗 染付
あとがき
今回の特集では、吉州窯の多様な装飾技法と、それを育んだ時代の背景について考察してまいりました。長きにわたり稚拙な考察にお付き合いいただき、心より感謝申し上げます。吉州窯の持つ尽きせぬ魅力の一端をお伝えできていれば幸いに存じます。